東京高等裁判所 昭和56年(ネ)2875号 判決
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【判旨】
一控訴人と被控訴人との間で、昭和四八年七月二〇日、被控訴人が控訴人に対し、本件土地を釣堀業の用に供させる目的で、賃料一カ年二〇万円、毎年一二月に持参払、期間昭和五三年七月二〇日までという約定により貸渡し、控訴人がこれを借受ける旨の賃貸借契約(以下「本件契約」という。)が締結されたこと、控訴人が本件土地上に本件建物を築造、所有していることは当事者間に争いないが、控訴人は、本件契約は右釣堀営業の目的に加えて、借地法一条にいう「建物ノ所有ヲ目的トスル」ものでもある旨主張する。
しかしながら、右規定にいう「建物ノ所有ヲ目的トスル」とは、土地の賃貸借(又は地上権の設定)の主たる目的がその土地上に建物を所有することにある場合を指すものと解されるところ、弁論の全趣旨によると、釣堀営業のためには、通常、釣堀用の池など、その営業に必須の施設のほか、顧客応待用の事務所、物置等の付属施設を要することが明らかであり、したがつて、釣堀営業を目的とする土地の賃貸借にあつても、通常は右付属施設用の建物の築造、所有が予定されているものといい得るが、この場合の右付属施設用の建物の所有は、反対の特約があるなど、特段の事情のないかぎり、その土地自体を釣堀営業に利用するための従たる目的にすぎないものというべきである。
そこで、本件契約についてこの点をみるに、<証拠>を総合すると、控訴人は本件契約締結後に本件建物を築造し、昭和四八年九月二五日ころからこれに居住して釣堀業を営んでいること、本件建物は、営業用事務室のほかに、居住用の部屋や炊事場を有するが、購入価額五九万五七〇〇円のプレハブのパネルハウスに若干の建具類を取付け、電気、ガス設備等を施したものにすぎず、ごく短期間で築造できるものであるうえ、その床面積も本件土地面積の一割にも及ばないことが認められるのであつて、これらの事実からすれば、控訴人が本件建物に居住していることを考慮しても、控訴人による同建物の築造、所有は、本件土地を釣堀営業に利用するためのものであり、本件契約の従たる目的にすぎないと推認せざるを得ないところ、前記説示にかかる反対の特約の存在など、特段の事情を認めるに足りる証拠はない。
もつとも、<証拠>によれば、本件契約については権利金三〇〇万円が控訴人から被控訴人に対して支払われていることが明らかであるけれども、<証拠>によると、賃貸借の目的物たる本件土地の面積は、公簿上565.18平方メートルであつて、実際はそれよりもやや広いこと、本件契約当時における右土地のいわゆる更地価格は三〇〇〇万円を下らなかつたことを認定できるところ、右認定にかかる土地の面積、価格に照らし考えると、三〇〇万円程度の権利金の授受があつたことから、直ちに、本件契約について、釣堀営業のほか、これと並んで建物の所有をも目的とする旨の特約が存在した事実を推認することはできないというべきである。
以上のとおりとすると、本件契約は本件土地を釣堀営業のため使用することを主たる目的とするものであつて、借地法の適用がある「建物ノ所有ヲ目的トスル」賃貸借にはあたらないといわざるを得ない。なお、<証拠>中、右の趣旨の記載のある「賃貸借契約念書」と題する書面(甲第二号証)の作成経緯についていう部分は、弁論の全趣旨により同書面が本件契約成立後の昭和四八年一二月に作成されたものであることが明らかであることに照らし、右判断を左右するものではなく、他に本件契約が「建物ノ所有ヲ目的トスル」賃貸借に該当するものと認めるに足りる証拠はない。
(鰍澤健三 奥平守男 尾方滋)